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感想「見知らぬ者の墓」

「見知らぬ者の墓」 マーガレット・ミラー 創元推理文庫
このところ、マーガレット・ミラーを再読してる中での再読。原著は1960年の刊行で、邦訳は1988年。多分、最後に読んでから、20年以上経ってると思う。原著の刊行順としては、「耳をすます壁」と「まるで天使のような」の間に入る。

自分の墓が墓地にあるのを夢に見た女性が、墓に刻まれた「自分が死んだ」日付に何が起きたのかを調べ始める話。

途中までは、主人公の女性の神経症的な挙動に違和感を感じて、すんなり話に乗れなかった。それなりに安定して、裕福な生活を送っている女性が、気まぐれ的に自分探しを始める、というような描き方になっているので、あまり共感が持てなかった。確か、過去に読んだ時も、そんなことを思った覚えがあり、多分、その辺が理由で、ミラーの傑作群と見なされている中期の作品の中では、本書はそれほど自分の印象は良くない。
主人公(と、めぐりあわせで、彼女に雇われる成り行きになった私立探偵)の調査が進むにつれて、その日に何かが起きていたことは、当然分かってくるのだけれど、曖昧模糊とした状況はなかなか変わらず、その辺ももどかしい。
ただ、一見、安定して恵まれているように思えた主人公の生活が、彼女を「保護」しようとする(そしてそれによって、自分たちの生活を安定させようと考える)夫や母親の偽りの上に成り立っていたことは、次第に分かってくる。それによって小説は、庇護の中にいた主人公が、自立へ向かう物語へと変わっていくように見える。
話が三分の二を越えたあたりで、隠されていた真実の断片がようやく姿を見せ始め、そのあたりから話が一気に核心に迫っていく。この辺の、伏線を回収しながら畳み掛けて、結末になだれ込む展開は鮮やかで、ここでようやく、確かにこれは傑作群の一冊に違いないと思った。

書かれている内容の比率を考えるなら、本書のメインテーマはやはり、主人公の自立、もしくは、主人公と引かれあっていく私立探偵の人間性の回復ということになるのではないのかな。そして、これは「まるで天使のような」とほぼ共通するように思う。
一方で、主人公の平穏な生活が、嘘から作り上げられた薄っぺらな基盤の上に存在していたこと、そんな日常が何かのはずみで簡単に崩壊していくこと、身近にいる人物の、それまで知っていたのとは別の姿がそこで見えてくること、といった、一般的にミラーの作品の特徴として考えられている要素も、はっきり存在している。やはりこれが、ミラーの作品に一貫するテーマなんだろう。それはとても暗いビジョンだと思うのだけれど、ミステリの構成上、そういう要素が必要だから描いた、と考えるには、あまりにも痛々しくて、反復の頻度も高過ぎるように思う。

主人公に対しては、救いとして私立探偵が配されているわけだけれど、それが本当に救いとなるのかどうかは描かれずに話は終わる。これもミラーらしい形。
この時期の作品としては、「殺す風」だけが、ここは違っていたのかな?と思うと、あの小説の特別な感じが、改めて思い出される気がした。単なる思い込みではなく、本当にそうなのかどうかは、これもまた、再読してみないと分からないが。 
(2020.6.27)

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