« J1リーグ第9節名古屋対浦和 | トップページ | セリーグ ヤクルト対DeNA(8/9) »

感想「黄金の蜘蛛」

「黄金の蜘蛛」 レックス・スタウト ハヤカワポケミス
かなり久しぶりの再読。1953年に刊行されたネロ・ウルフもの。邦訳は1955年と思われ、おそらく、ポケミスから最初に出たネロ・ウルフもの。ちなみにポケミスが創刊されたのが1953年で、レックス・スタウト/ネロ・ウルフを収録するにあたって、最新の長篇を選んだと考えると、筋が通るように思える。今まで、作品の刊行順から見て、なぜ本書が唐突に訳出されたんだろうと、疑問を感じていたが、納得のいく理由を見つけた気がする。

訳者はネロ・ウルフの翻訳で定評のある(と勝手に思ってるが)佐倉潤吾ではなく、高橋豊。訳文は、ハードボイルド的な荒っぽさが強調されている。佐倉さんらしい、やわらかさのあるユーモラスな雰囲気には乏しい。翻訳は訳者の解釈次第なので、どちらが正解というのは結構難しい。しかも、ウルフものには、ハードボイルド的な要素が間違いなくあるので、本書のような切り口を、一概に誤りと言ってしまうのはためらいがある。とはいうものの、ウルフものの一連の作品を読んできた実感としては、佐倉訳の方が、ウルフものの味わいをうまく伝えていると思う。そもそも、明らかに佐倉訳の方が面白く読める。そんなわけで、「黄金の蜘蛛」は、シリーズの中ではいまひとつの出来、という印象が残ってしまっている。これがポケミスでの最初の翻訳(多分)だったことが、これ以降の日本でのウルフものの受け入れられ方に影響した面も、ないわけではなかったのでは、という気もする。

再読のきっかけは、死蔵していた録画ビデオを整理していて、これの映像化の「ゴールデンスパイダー」を見つけたこと。日本では「グルメ探偵ネロ・ウルフ」のタイトルで出ているアメリカ制作のTVシリーズの、パイロット版的な作品で、2000年に制作された。これが好評だったので、「グルメ探偵ネロ・ウルフ」のTVシリーズが制作された、という経緯らしい。ざっと流しで一通り見てみて、結構面白かったので、原作を再読してみる気になった。

ストーリーは…。
ウルフの子供っぽいふるまいにうんざりしたアーチーが、たまたまやってきた子供(ピート)を依頼人として受け入れて、ウルフが話を聞かざるをえないように仕向ける。しかしピートは翌日、車に轢き殺されてしまう。前日、ピートが話していた、通りで車の窓拭きをしていた時に、車中の女性から「警察を呼んで」と口の動きで伝えられた件に関係があるらしい。ピートを轢き殺して逃げたのは、ピートが話していたのと同じ車だった。しかも、ピートは絶命する前に母親に、貯金箱の金を依頼料としてウルフに渡してくれと言い残していた。5ドルに満たない金を受け取ったウルフとアーチーは、その金額で済む範囲の調査で気持ちを整理しようとしたが、その他にも殺人が起こり、どんどん話が大きくなっていく。

ウルフとアーチーの諍いで話が始まるのは、ウルフものには割とよくあるパターン。そこからどんどん話が広がっていくあたりも、熟練の安定した運びで、たのしく読める。既に警察が先行して動いている殺人事件の調査へ割り込んでいく形になるが、今回のウルフには、警察が持っていない有力な手持ちのネタがない。その辺の事情もあって、クレイマーやステビンズと、割と協力的に進めていくあたりが、シリーズ作品として少し特徴のある所かも。とはいえ、それほど顕著ではない。

ソール、フレッド、オリーも動員しての、総力を挙げての調査になり、彼らがそれぞれ持ち味を発揮している。この辺は、テレビシリーズのパイロット版の原作としても、向いているように思える。彼らとアーチーが組んで、犯罪者ときわどいやりとりをする場面があるが、この辺がいかにもハードボイルド寄りで、高橋訳でもいいのかな、と思う部分。
もう一つの特徴は、アーチーがきれいなお姉さんと絡む場面が、割と少ないところかな。全体的に、いつもと比べると、レギュラー以外に存在感が強い人物が乏しいような気はする。それだけ、プロットが強い構成になっている、とはいえるかも。
解決はごくシンプルで、細かく詰めれば、いくらでも穴は見つけられそうだが、すっきりしているので直感的に理解しやすく、納得しやすい。ウルフものの長篇の中では、まとまりがよい部類ではないかと思う。

そんなわけで、特にずば抜けてはいないけれど、シリーズものとして、決していまひとつな作品ではなかったな、という感想になったが、やはり翻訳への違和感は拭えなかった。改訳して出し直して欲しいところではある。

引き続き、TV映画版も見直したので、その感想は別途
(2020.7.26)

[付記] 初読時の短い感想(1983/10/25付)
いつもほどプロットは錯綜していないが、それで駄作とは言えないのがウルフもののいいところ。アーチー以下の私立探偵カルテットがえらくハードボイルドぽいのもよい。

|

« J1リーグ第9節名古屋対浦和 | トップページ | セリーグ ヤクルト対DeNA(8/9) »

小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« J1リーグ第9節名古屋対浦和 | トップページ | セリーグ ヤクルト対DeNA(8/9) »