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感想「老いた男」

「老いた男」 トマス・ペリー ハヤカワ文庫
この作家の小説は、2018年に17年ぶりに邦訳されたが(「アベルVSホイト」)、その2年後にまた新しい翻訳が出た。「アベルVSホイト」が、けっこう好評だったのかな。ミステリ雑誌とか「このミス」の類を、近頃は一切見ないもので、その辺のことは全然わからない。 

本書の主人公は、元アメリカの工作員。リビアの反政府組織への工作の際に、自身の判断で行った行動が組織の不興を買い、組織から隠れて暮らす身となった。工作員としての秀れた能力を生かして、普通の市民としての生活を30年以上続けてきたが、突然、命を狙われ始め、必死の逃亡を始めることになる。
主人公のサバイバルが迫力十分で、緊張感を楽しめる小説。プロフェッショナルな人物のテクニックを描くのは、この作家が得意とするところだし、全篇に渡って、その持ち味を堪能出来る。
ただ、1/5ほど進んだところで、ヒロイン的な人物が現れる。これは、ちょっと都合が良すぎるキャラじゃないだろうか、と感じた。話がある程度進んだあたりで、彼女自身の背景が語られるが、ここも若干、言い訳的な感じがしないではない。また、それを言えば、副主人公的な別の登場人物にも、同じようなことは言える。ただ、おとぎ話と思えば、これはこれでいいのかもしれない。この作家の書く小説は、大半がそういう傾向のものと考えているし、そこが良さだとも思っているので。
また、ヒロインにしても、副主人公にしても、(現代のアメリカ)社会において、女性やマイノリティが置かれている、不公平な立場を体現している人物と読み取れる描写が相当多く、そこに著者の問題意識を感じ取れるようにも思った。
そもそも、主人公が組織に追われるようになったのも、正義からかけ離れた組織のあり方に対する、主人公の反発から始まったことで、あくまでも小説の味付けではあるかもしれないが、国・社会・組織の不公正さに抗う個人という構図は、かなりはっきりしている。そして、こうした構図は、この作家がずっと描いてきたものでもある。

そういうわけで、いかにもトマス・ペリーらしい小説だったと思う。それを期待して読んで、十分に満足させてもらったとも思う。ただ、過去に読んだこの作家の他の小説に比べると、ユーモア感は少し薄くて、強行突破なサスペンスの雰囲気が濃いような気がする。それが題材から来るものなのか、他に理由があるのかは、よくわからない。 
(2020.11.25)

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