感想「フィルムノワール/黒色影片」
「フィルムノワール/黒色影片」 矢作俊彦 新潮社
ここ30年くらいに出た矢作俊彦の本は、だいたい全部読んでいる気でいたけれど、2014年に出たこの本を見落としていたことに気付いて、入手して読んでみた。
主人公はおなじみのシリーズキャラクターの二村。神奈川県警の刑事だったはずだけど、本作では警察を辞職はしたものの、嘱託という中途半端な立場にいるという設定。
大物女優の頼みを受けて、香港へ幻の映画フィルムを探しに行くことになるが、この件には、二村が横浜で現場に出くわした、中国人が関わる殺人事件も絡んでいるらしく、両者が混然となって話が進んで行く。
そこら中に日活アクション映画への言及があるし、宍戸錠が重要な登場人物として、度々登場する。日活アクション映画への愛情を語るために書かれたような、徹頭徹尾、趣味的な小説(実際、新潮社のサイトにある宍戸錠との対談では、矢作自身がそんなような趣旨のことを言っている)。しかも550ページを超える大作で、こんな小説が出せるんだ、と思った。それだけ矢作俊彦のファンが居る(自分も含めて)、ということではあるんだろうな。すごいな。
まあ、帯には「日活100年記念」という記載もあるから、そっち絡みの企画でもあったんだろう。
とはいえ、登場人物のキャラクターとか、ストーリーの構成とか、いかにも矢作俊彦らしい小説なのは間違いなくて、そういう意味で完成度は高いし、ファンなら本当に楽しめると思った。
映画(これは必ずしも日活に限らない)への膨大な言及や、イメージの引用があるが、これに関しては、こちらの教養が薄すぎて、多分、1割も理解できてないんじゃないかと思うけれど、それでも雰囲気は十分に楽しめたし。
ただ、舞台となっている香港が、どの程度、リアルに描かれているのかは知らないけれど、これがこの本が出た2014年の現実だったとしても(本書の原型は、「新潮」で2010~2012年に連載されたようだから、さらに古いかも)、2019年以降、大陸による統制が強化されている現在では、失われた風景なんだろうなと思ってしまった。
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