感想「反撥」
「反撥」 ジム・トンプスン 文遊社
一昨年の10月に刊行された邦訳で、去年の初めに買ったけど、なんとなく手が付かないまま、持ち越していた。やっと読んだ。
刑務所に15年服役していた男が、街の有力者から職を提供されたことによって、仮出所させてもらったが、これには裏があり、彼は次第に窮地に追い詰められていく、という話。
割とストレートなサスペンス小説という印象。刊行された時期は比較的後年だけれど、解説によれば、書かれた順番では犯罪小説としては2作目という早い時期だったそうなので、手堅くオーソドックスな線を狙って書かれたものなのかもしれない。
ただ、トンプスンらしさは随所に感じられる。主人公は必ずしも「悪人」ではないけれど、不安定な性格で、衝動的に暴走気味な行動をしてしまいがち。主人公を取り巻く不条理な状況や、信用できそうな人物がほとんど登場しないこと、次々に事件が起きるわけではないが、ひとつひとつの細かな出来事を積み重ねた、徐々に締め上げられていくような、息苦しさのある話の進め方などに、それを感じる。
とはいえ、トンプスンの作品の中では、意外なくらい素直で読みやすいと思った。あっさりし過ぎて、少し物足りないような気は、しないでもない。
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