感想「ギリシャ・ミステリ傑作選 無益な殺人未遂への想像上の反響」
「ギリシャ・ミステリ傑作選 無益な殺人未遂への想像上の反響」 ディミトリス・ポサンジス編 竹書房文庫
昨年の7月に出た本。あとがきなどに特に言及がないので分からないけれど、4月に同じ竹書房文庫から出た「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」の姉妹編のように思える。タイミング的に、全く関係ないとは思えない。
全15編が収録された短篇集で、特定の方向性の作品を集めたものではなく、ギリシャのミステリ全体を俯瞰する内容。多様な方向性の作品があるが、どれもちゃんとした内容で、ミステリのアンソロジーとして、物足りなさを感じることもなく、普通に読めて、楽しめた。解説によると、ギリシャでミステリが盛んになったのは、それほど昔ではないようだけれど、小説の一部門として既にしっかり確立しているように思える。
国柄を感じるのは、「ノヴァ・ヘラス」の時もそうだったけれど、多くの作品に、政治の不安定さや経済危機が色濃く映り込んでいる部分。特に経済危機による貧困が絡んでいる作品が多い。閉じた世界を舞台にした作品はほぼなくて、基本的に現実の社会が背景になっているので、必然的にそうなるとも思える。SFとは違うので、ディストピア的とまではいかないにせよ、暗めの作品が多いのは、やはりその影響かもしれない。ミステリとしての方向性を問わず、社会派的な傾向を持つ作品も多い。
収録作の中では、そうした要素を持ちつつも、最後にきれいに落として来る「三人の騎士」が、一番好きかな。いかにもギリシャで書かれたミステリという感じがするところもいい。あとは、好みかどうかは別にして、ノワール的な作品群の衝撃度が強いように思った。ギリシャらしさの反映かな、と漠然と思っているけれど、本当にそうなのかどうかはわからない。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 感想「チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク」(2024.07.14)
- 感想「屍衣にポケットはない」(2024.07.13)
- 感想「ギリシャ・ミステリ傑作選 無益な殺人未遂への想像上の反響」(2024.03.26)
- 感想「反撥」(2024.03.19)
- 感想「空中楼閣を盗め!」(2023.12.01)
コメント