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感想「列をなす棺」

「列をなす棺」 エドマンド・クリスピン 論創社
久し振りに邦訳が出て、クリスピンの長篇を読むことが出来た。
元々は「お楽しみの埋葬」のスラップスティックぶりが好きで読み始めた作家だけど、一時期、集中的に出た邦訳作品も含めて、それ以外も一通り読んで、「お楽しみの埋葬」の方が例外的に突出した作品、と理解している。それでも、一番好きなのが「お楽しみの埋葬」なのは変わらないが、この人の作品は気持ちよく読めるので、好き。本格ミステリとしての作りの丁寧さ、穏やかなユーモア、派手な展開でも抑制が効いていて、良識を感じさせる語り口、といったところかな。
本書はそういう中でも、まとまりのいい作品じゃないかと思う。その分、眼を引くような売りが乏しいとは言えるのかも知れないが。だから、邦訳が遅れたのかな? でも十分面白く読めた。
ジュディが暴走する部分には、スラップスティック的な要素が現れているかな、と思った。
解説は参考になった。なにせ、作品の背景にある教養的な部分は、自分にはほとんど分からないので、そういう所を補ってくれるのは有難い。まあ、分からなくても楽しめるし、それでいいんだろうと思ってもいるけれど。また、時代性についての考察も興味深かった。過去に読んだ中には、第二次大戦の影響を感じて、そういうことをいくらか考えた作品はあったけれど(その辺も解説で触れられている)、イアン・フレミングと時代が重なるような時期の作家だったと知ると、また少し見方も変わってくるような気がする。
(2024.12.20)

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感想「エイレングラフ弁護士の事件簿」

「エイレングラフ弁護士の事件簿」 ローレンス・ブロック 文春文庫
弁護士エイレングラフを主人公にした、全12篇の作品が収録された短篇集。
このシリーズは、昔、「EQ」に時々訳載されていたのを読んでいた。多分、大半は既読だと思う。読んだ覚えのある作品が多かった。
エイレングラフは、明らかに殺人を犯している(しかも、情状酌量の余地はほぼない)依頼人を無罪にしてしまう弁護士で、いわゆる悪徳弁護士ものということになるのだろうけど、その悪徳ぶりが強烈な所がポイント。あとは詩を愛好する伊達男という、主人公のキャラクターの造形も成功している。
ただ、なにせ、自分が海外ミステリを読み始めたごく初期に出会ったシリーズだったので、そんなことは、最初に読み始めた時には、全然分かっていなかった。一般的には、普通の弁護士ものや、それをひとひねりした悪徳弁護士ものを読んだ上で、出会うべきシリーズだったのではと思う。そこをすっ飛ばして、いきなり読んでしまった結果、自分の弁護士物のミステリに対するイメージは、だいぶゆがんでしまったかもしれない。でも、それはそれで良かったと思う。小説の読み方に、こうでなくてはいけない、なんてものはない。とはいえ、ペリイ・メイスンとか、当り前な弁護士小説をその後に読んで、あまり面白く思えなかったのは、そのせいかもしれない。
とても不可能と思える状況で、依頼人を救うやり方の強烈さが衝撃的で、面白く読んでいた。ただ、その救い方が、プロット的には最大の読みどころなのだけど、どうしてもパターンが限られるので、「EQ」で読んでいた時は、何度か読んでいるうちに、だんだん飽きてきた覚えがある。今回は久々に読んだので、面白く読めたけれど、何篇も続けて読んでいると、やはり飽きてきた気がした。作者が、いろいろ目先を変えているのは分かるし、その工夫のされ方にも面白さは感じるのだけど。
雑誌で時々読むくらいが、ちょうどいいような気はする。まあ、昔はそういう読み方でも飽きていたわけだが。
(2024.12.13)

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J1リーグ第38節 横浜対名古屋

2024.12.8(日) 14時 日産スタジアム
観客 42866人 主審 谷本涼 副審 渡辺康太、坊薗真琴

 横浜F・マリノス 0(0−1)2 名古屋グランパス
           (0−1)

 得点 24分 名古屋・和泉
    71分 名古屋・山岸

J1の今季最終戦。現地観戦。

ランゲラックのグランパスでのラストゲームになるはずだったが、急な腰痛とのことで欠場。GKは武田が起用されるという、思いがけない事態。そういうことって、起きるものなんだな、と思う。
他の先発メンバーはいつも通り。鳥栖戦で欠場した野上が戻って右サイドで、和泉が前に上がり、山岸は外れて控えになったが、むしろこっちの方が「いつも」ではある。

立ち上がりは名古屋が攻勢で押し込んだ。セットプレーなどから、惜しい場面を何度か作った。でも、こういうところで決めきれないと、流れが変わって守勢になって、やられちゃうのがパターンなんだよな、と思っていたが、マリノスはいっこうにペースが上がらない。マイボールにしても、そこから名古屋ゴールまで迫るような形が、ほとんど作れていなかった。名古屋が優勢のまま時間が進み、24分に、人数を掛けた厚みのある攻撃から、和泉のシュートが決まって先制。
流れは後半も変わらなかった。マリノスの攻撃は、連動性が欠けていて、迫力がなく、いつもの(特に前節の)名古屋みたいに見えた。
70分に永井に変わって山岸が入ると、直後にマリノスDFがGKへパスミス。こぼれたボールに、入ったばかりの山岸が詰めて2点目。こういう相手のミスを突くうまさというか、得点感覚というのは、山岸の独特なものだな。永井もうまいけれど、どちらかというと、自分でプレッシャーに行って、ミスを誘発するという感じ。山岸のめざとさは、少しタイプが違うかもしれない。
この後のマリノスは、どうしていいか、わからなくなってしまったような感じで、名古屋が無難に試合を進め、2-0での完勝。

ポゼッションの数字はマリノスの方が上回っていたようなのだけれど、ボールを持っているだけで、有効な形を作ることが出来ていなかったし、名古屋が終始優勢に運んだ試合だったことは間違いないと思う。
今季はマリノスと4戦して3勝1敗で、その1敗もルヴァンの第2戦の、得失点差だけが重要な試合だったから、実質的には勝ち試合みたいなもの。とても相性が良かった。今年のマリノスは、公式戦61試合という過酷な日程で戦っていたようなので、コンディションも整わなかったのだろうなとは思う。変なミスがたびたび起きて、この日のように、それが名古屋の得点につながったりもしていた。
ただ、マリノスが絶好調だった時期も、名古屋は案外、接戦に持ち込むことが多かったから、もともと相性はそんなに悪くないと思っている。
先週の鳥栖戦とこの試合を続けて見て、その理由は、マリノスが名古屋と似たタイプのチームだからじゃないか、という気がした。例年、マリノスの方が、名古屋よりも選手の連携が取れたチームという印象があるけれど、それは個々の選手のスペックの高さで、力づくで噛み合わせているだけなのかもしれない。選手のコンディションが整わなくて、力を発揮できない状況だと、成り立たなくなってしまう。鳥栖のように、選手一人一人の意識で、連携が成り立っているように見えるチームとは違う。
連携が崩れているマリノスであれば、個人の能力だけの戦いに持ち込めるから、個人技に長けた選手をそれなりに揃えている名古屋なら、十分勝ち目がある、という感じ。この日の試合も、実際、そういう勝ち方だったと思う。
名古屋の前節の試合との違いは、ランゲラックが欠場したことで、プレッシャーがかかる要素がなくなったこともあっただろうけれど、その辺も大きかったんじゃないかと思った。

今年の名古屋は、基本的に個人の能力に依存したチームだったと考えている。まあ、名古屋は伝統的にそうなんだけれども、今年は特にそんな感じ。以前から居た選手がほぼいなくなって、去年まで曲がりなりにも維持されていた、ヤヒロやマッシモが作ってきたチームとしての決まりごとも消滅して、長谷川が一からチームを作り直そうとしたらこうなった、というか、こんなふうにしか出来なかった。選手の故障が多かったり(それはそれで別の問題をはらんでそうな気はするが)、若手の育成というテーマがあったり、という事情はあったにしても、彼がチームを作り上げる能力には、正直、疑問を感じた。
だから、来季も続投というのはちょっと、と思っている。ルヴァン杯の優勝は、実力というより多分に成り行きだったと感じているし、リーグ戦の順位はこの3年で最低。曲がりなりにもタイトルを取った褒賞としての続投という感じ。チームからの評価の判断基準を下げてもらっている感じもするから、チームにとっては、使いやすい監督なのかもしれない。ルヴァン杯で優勝して、リーグ戦でも上位に食い込んでいたマッシモがクビになったことを思うと、長谷川に対してのチームの扱いには、納得できないものがある。
とはいえ、選手さえ揃えば、それなりの成績は残せるんだろうとは思う。結局は、来季に向けて、どういうメンバーを揃えられるか次第だろうな。そこで失敗すると、逆にまた今季みたいに、残留ラインに絡むことになるんじゃないか、という気もする。
来季はどういうシーズンになることか。

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名古屋のゴール裏のみなさん。
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