感想「岳飛伝」3

「岳飛伝」3 北方謙三 集英社文庫
梁山泊と金が戦って、激戦の後、講和へ向かうというのが主筋。金に対するわだかまりも解けたとなると、しばらくは梁山泊はあんまり積極的に戦をする理由がなくなりそうに思える。元々、今回の「岳飛伝」での梁山泊は、経済活動に力点があって、基本的に戦闘意欲が薄い感じがする。
だから「岳飛伝」なのかな。岳飛は今もやる気満々だし、当面も、岳飛と金の対決で話が回りそうだし。華々しい話は、岳飛を中心に置いて、回していくのかな。

なお、梁山泊がインドシナ半島(タイの方まで行っている)で開拓事業を始めようとしてるが、それっていいのかな、という気がちょっとした。
(2017.1.31)

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感想「死の鳥」

「死の鳥」 ハーラン・エリスン ハヤカワ文庫
昨年刊行された、日本オリジナル編集の、SFを主体とした短篇集。
この作家の邦訳本はこれが2冊目なんだそうで(もう1冊は有名な?「世界の中心で愛を叫んだけもの」)、作家の知名度と出版点数の落差がこれほど落差のある作家も珍しいのでは。もっとも、作品自体は雑誌やアンソロジーにはよく収録されているし、本書収録作のうち、少なくとも半分は読んだことがあった。

暴力的でグロテスクな内容の作品群。もちろん知ってて読んだんだが、そんなに好きな作風とは言えないな、と再確認したというか。それならなんで読んだのか、というと、まあ、怖いもの見たさ的な感覚なのかな。あと、作品の持つ鋭さみたいな所に、格好良さというか、魅力を感じていないわけでもない。ただ、やっぱりちょっと合わないかもしれないと、今回、思った。
それにしても、こういう作品が一部のマニアックなファンだけでなく、広く受け入れられた(SFやミステリのメジャーな賞をたくさん取っている)点が、よくわからなかったが、改めて読んでみて、60-70年代というのは、こういう殊更にタブーに挑戦するような、実験的な作品が求められた時代だったのかな、とは思った。
それと、今回の作品群を見ると、SFというよりは、ファンタジーの作家、という感じ。そこも、自分がSFに求めてる方向性とは、あんまり合っていないかもしれない。

本書の中では、MWA賞を取った「鞭打たれた犬たちのうめき」「ソフト・モンキー」あたりが、自分の読書傾向からしても取っつきは良かった(もっとも、前者については、ミステリ?と思うが。これは既読だった作品で、初読の時からそう思っていた)。他も「プリティ・マギー・マネーアイズ」とか、あんまりファンタジー色が強くない作品の方が好きだなと思えた。
(2017.1.28)

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感想「拾った女」

「拾った女」 チャールズ・ウィルフォード 扶桑社ミステリー
10月頃、久々にこの作家の翻訳が出てるのに気付いて、買わなきゃと思ってるうちに、年末になっていた。ちなみに、巻かれていた帯によると、年末恒例のベストミステリ選びでは結構いい結果になったらしい。まあ、以前、立て続けに翻訳が出てた頃には定評があった作家だから、票も集めやすかっただろうし。

で、年が明けてから読んだ。
冒頭を読んでいて、魔性の女に関わって、破滅していく男の(割りとよくあるパターンの)話かあ、と思ったんだが、その辺の辛気臭い展開に早々にケリがついてしまうあたりに、この作家らしいひねりを感じた。で、そこから、ジム・トンプソンみたいな狂気の世界へ入っていくのかと思えば、これも軽く流す。この辺の外しっぷりも、ウィルフォードらしくていいなと思っていたら、最後に仕掛けてきたよ。
これは頭からもう一度読まないと、と思った。巧いなあ。
こういう内容の小説がミステリかというと、結構微妙かと思うんだが、仕掛けのセンスは明らかにミステリだよな。

計算されてはいるにしても、そんなに丁寧に書かれているとは思わないが、主人公の絶望感は強く伝わってくる小説だった。この主人公が、根底の部分では破綻していない(壊れることによって逃避することが出来ない)人間だということが、この小説に強い悲劇性をもたらしているんじゃないかと思う。
(2017.1.16)

[追記]
結末を読んだ上で再読してみた。
その結果として、結末を意識した仕掛けなんだろうと感じた箇所は、作中にいくつかあったけれど、それほど強烈な印象を残す場面はなかったように思った。
ただ、それは作家の意図とは限らないと思う。なにぶん、翻訳なので、原文のニュアンスを完全に伝えきれている可能性は低いだろうし、本書が書かれた時代(1954年刊行)も、場所も、人間の意識も、現代の日本とは全然違うはずだから、著者の狙った効果を、感覚的なレベルで受け止め切れるわけもないという気もするので。
残念ではあるけれど、まあ、そういうものじゃないかな。
(2017.2.3)

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感想「岳飛伝」2

「岳飛伝」2 北方謙三 集英社文庫
小康状態を終えて、話が動き始める、という感じの巻。終盤には梁山泊と金の交戦が始まる。これでまた、おなじみの登場人物がバタバタ消えるのかなと思うと、あんまりいい気分はしないけど、そもそもそういう小説なんだから、それを言う方がおかしいか。王進とか、年齢を重ねたキャラクターが消えていくのは、そんなに応えないけれど、さすがに史進は居なくなったら、さびしくなるだろうなと思う。なんとなく死亡フラグが立っているような気がするので。
ちなみに、現時点では、梁山泊だけでなく、どの勢力にも悪役っぽさがないので、どう転んでも気の毒だな、残念だな、という感じになってしまいそうで、読んでいくのはちょっと辛いかもしれない。

前の巻を読んでいて、絶対的な指導者を失った組織はどういうふうにやっていくのか、みたいな所が「岳飛伝」のテーマかなと思ってたが、それはそれであるけれど、もう一つ、絶対的な敵を失った(倒した)後、組織はどうしたらいいのか、というテーマも含んでいるというのを理解した。というか、それは「楊令伝」の半ば以降で、既に現れていたテーマだったんだろうと思う。忘れてしまっていたのかな。
「楊令伝」での梁山泊は、楊令が一人でそれを背負って舵を取って、他の連中は付いていくだけだったのが、「岳飛伝」では、その楊令が居なくなって、自分たちで考えないといけなくなり、さあどうする?みたいな展開。目標を見失った時の混乱と読み替えれば、こちらの方が、テーマとしては、より普遍的なような気はする。

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感想「死者は語らずとも」

「死者は語らずとも」 フィリップ・カー PHP文芸文庫
ベルンハルト・グンターもの再開後の3作目。

正直、このシリーズは読んでてしんどいので、あんまり一気に読めなくて、ダラダラ読んでいた。7割くらいまでがナチス支配下のドイツが舞台で、非人間的な状況が、これでもかというくらいに描かれる。今読んでて辛いのは、記述そのものだけじゃなく、ここで描かれてるいろいろな抑圧や横暴が、必ずしも他人事ではなくなりつつある、という実感があるからで…。著者もそういう意図で書いてるんだと思うよ。程度の差はあっても、そういう動きは日本に限らず、世界共通した流れのようだから。

残り3割はカストロが台頭し始めた時期のキューバが舞台。まだ革命までは時間があるが、流れは始まっている。グンターはドイツのパートで出会った人間と、時を隔てて再会し、いろんなことが起きる。もちろん、殺人事件も起きる。ただ、再開第一作「変わらざるもの」のような大仕掛けはないので、ミステリとしての印象はそんなには強くない。テーマ的には悪はあまねく存在する(ナチスだけでなく)、というあたりじゃないかと思うし、そっちの方がずっと印象的。
ちなみに前作「静かなる炎」は後半部のアルゼンチンのパートも真っ暗で、読んでて本当にしんどかったんだが、それに比べれば本作のキューバのパートはまだ救いがあるなと思った。割と楽には読めた。

ドイツのパートは背景にベルリンオリンピックがあって、ナチスの所業を知らんぷりして参加を決めたアメリカってのが、大きなポイントになってる。所詮、オリンピックなんて、昔から腐ってたという気もした(その辺のことは、昔、「ヒトラーへの聖火」でも読んだはず)。
(2016.12.15)

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感想「猫に知られるなかれ」

「猫に知られるなかれ」 深町秋生 ハルキ文庫
最近、この作家の名前を見かけることが何度かあって、この本が「岳飛伝」を買った時にすぐ近くにあったので、読んでみることにした。

太平洋戦争直後の荒廃した混乱期の日本(主に東京)を舞台にした活劇小説。4篇から成る連作短編集のような体裁。私的な諜報機関が、戦後日本の体制を混乱させようとする勢力(左右問わず)と戦う話。
登場人物も背景も、戦争を強く引きずっていて、非常に重苦しいはずなんだけれど、書きっぷりはあくまでも娯楽小説なので、読んでいていまいち重みがなく、その辺のアンバランスさが、何となく居心地が悪かった。内容がそのまま反映したら、かなり凄惨な小説になるのは確かなので、それがいいかどうかは一考の余地有りかもしれないが。
ただ、登場人物の描き方は割と一面的であまり陰影が感じられないし、諜報機関が戦う話にしては、筋立ても単純過ぎるように思えるので、そもそもそんなに深い所は狙ってない小説のような気もする。
背景となる時代や地理を、かなり丁寧に調べて書いているようだし、活劇の場面は華々しいんだけど、面白さや深みという点では、今一つという印象だった。
(2016.12.5)

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感想「岳飛伝」1

「岳飛伝」1 北方謙三 集英社文庫
「楊令伝」の続篇の文庫化がスタート。「楊令伝」の最終巻から4年空いた。
それくらい空いてしまうと、話の基本構成くらいは覚えていても、たくさん居る登場人物一人一人の背景の記憶なんて、当然飛んでるわけで、何だったっけなあと思いながらの読書。以前の巻を読み返せばいいんだろうけど、今は本が手元になかったりもする。それでも、面白くは読めたが。

まずは、楊令が死んで崩壊しかけていた梁山泊が、再生し始める話という感じ。集団を一人で支えていた巨大な英雄を失った時、その集団はどうすればいいのかを模索していくというのが、話の基本線なのかもしれない。まあ、結論はかなり見えていて、新しい英雄を待つのではなく、一人一人が自分で考えてくんだ、ということになりそうだけど。
もっともタイトルロールは梁山泊と対峙する岳飛だから、むしろ今回は、梁山泊を意識させつつ、岳飛が一翼を担う南宋と、金の闘いがメインになってくるのかも、と思ったりもする。
まあ、17巻続く話だし、そんなに単純な展開じゃないだろうが。正直言って、登場人物がバタバタ死んでいく戦いのパートよりも、主に日常の生活が描かれているこういう部分の方が安心して読める。「水滸伝」の早い時期からの登場人物なんかは、せっかくここまで生き残ったんだから、何とか無事に生涯を終えて欲しいと思うし。もっとも、史進は無理だろうなあ(本人も望まなそうだし。でもそこも裏をかいた結末だったりして?)。

それにしても、このシリーズの重要なテーマで、登場人物みんなが真剣に考え続けているのは、国ってのは何なのか、本当に必要なものなのか、必要だとすればどうあるべきなのか、ということなんだが、そんなことをカケラも考えてなくて、国なんて自分たちのオモチャ、ぐらいの感覚でいるように見える、総理大臣を始めとするこの国の権力を握ってる連中のことを考えるとムカついてくる。
(2016.11.25)

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感想「ラバー・バンド」

「ラバー・バンド」 レックス・スタウト ハヤカワポケミス
ネロ・ウルフもの。ミステリ文庫で既読だし、比較的近年にも再読してるが、佐倉潤吾訳のポケミス版は読んだことはなかった。ミステリ文庫版は斉藤数衛が改訳している。ウルフものは佐倉訳が一番しっくり来るイメージがあるから、つい先日、このポケミス版が手に入ったので読んでみた。

話は本当に良くできていて、そんな調子のいい偶然が?みたいに思える所が、解決篇で次々きっちりはまっていくのが巧み。よく考えられている。ウルフものの中では上位に来る作品じゃないかと思う。
ただ、作品としては既読だから、それはある程度、分かってた話ではある(なぜ「ある程度」止まりなのかというと、例によって、話の中身をたいがい忘れていたからだけど(^^;))。今回は佐倉訳で読むというのが最大の目的だった。佐倉訳の味というのは、例えば5章の最後の方のウルフを中心としたやり取りの場面。ウルフ(とアーチー)のイメージが生き生きと浮かび上がってきて、わくわくする。そもそも、ウルフものを読む愉しさというのは、プロットよりもこうした描写にあるわけで、この訳者はそれがよくわかってる。斉藤訳もそんなに悪くはないけれど、いくらか硬い感じを受ける。もちろん、どちらがスタウト本人の感覚により近いのかというのは、分かりゃしないんだが、より親しみの持てるのは、やはり佐倉訳だろうと思う。

もちろん訳文自体はかなり古めかしく、ミステリ文庫に入れるには改訳は必須だったと思う。ちなみに「毒蛇」「腰抜け連盟」「赤い箱」は佐倉訳でミステリ文庫に入っている。これらのポケミス版は読んでないが、時期的に考えて訳文は「ラバーバンド」と大差なかったと思われるし、それを分かっていて、改訳して文庫化したんじゃないかなあ。「ラバーバンド」だけ訳者が違うのは、これが時期的に一番遅かったので、多分佐倉さんがもうやれなくなっていた、ということではないかと。この本を譲ってくれた方とは、この一冊はよっぽど問題があったんですかね、という話をしたが、読んでみると、あくまでも古めかしいだけで、翻訳がめちゃくちゃとかそういうことではないので、単に時期だけの問題だったんじゃないかなと思った。

今回も楽しく読めて良かった。

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感想「最後のウィネベーゴ」

「最後のウィネベーゴ」 コニー・ウィリス 河出文庫
短篇集。ずいぶん前に出た「犬は勘定に入れません」を、「ボートの三人男」を連想して(「ボートの三人男」は凄く好きな小説)、読んでみようかと思ったけど、結局、読まないままだったから、これで初めて読む作家。現役のSF作家の中では巨匠クラスらしいが、それもこの本の解説を読んで、初めて知ったくらい。よく名前を見るな、とは思っていたが。特にSF愛好家というわけじゃないから、そういう知識は薄いわけで。

それでも、それなりに期待はしていたが、どうも不発だった。
5篇収録されているうち、最初の3篇が、登場人物同士のコミュニケーションがうまくいかないことを、ストーリーのベースに置いている作品。読んでいて、そこがすごくいやな感じだった。まあ、そう感じるのは、俺自身の精神状態による所が大きいとは思うので(近頃、対人コミュニケーションに、強いストレスを感じることが多いので)、作品そのものの良し悪しとは必ずしも関係ないだろうが、相性が悪いというのは、はっきり思った。
アイディアは面白いんじゃないか、とは思えたけれど、まくしたてるような話の運びが、それを面白がる気持ちの余裕を与えてくれない。登場人物に対する、めんどくさいとか、鬱陶しいとか、そういう気持ちが先行してしまって、楽しさが感じられなかった。
4篇目の表題作は、そこまで3篇のドタバタ喜劇的な作風から一変して、シリアスで感情に訴えるタイプの作品だったが、そこまでの悪印象を引きずっていたせいもあってか、滅んでいくものへの哀惜というテーマが、なんだか手垢のついた題材としか思えず、ほとんど気持ちを揺さぶられなかった。終盤で明らかになる真相の一部が、途中で分かってしまったこともあり、あざといなあ、としか思えなかった。
文庫化にあたって追加されたという5篇目に至っては、風刺のアイディアは分かるけど、それ以外に何もない、その時代にその場所に居ないと、ほとんど意味がないタイプの小説だね、という感じ。

まあ、合わない作家だった、としか言いようがない。
繰り返しになるけど、アイディア自体は悪くないと思ったし、多分、SFの書き手としては、悪い作家じゃないんだろうと思う。違う時期、違う気分の時に読んでいたら、面白がれた可能性はあるかもしれない。でも、とりあえず今の自分には、全然向かない作家(作品?)だったのは間違いない。
(2016.8.11)

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感想「大西洋横断トンネル、万歳!」

「大西洋横断トンネル、万歳!」 ハリイ・ハリスン サンリオSF文庫
多分20年以上前に古本で買ったもの。在庫処理(^^;)。

レコンキスタが失敗して、この世界とは違う歴史をたどった20世紀の異世界を舞台に、イギリスとアメリカをトンネルで繋いで列車を走らせるという話。
この世界は、理想化されたヴィクトリア朝の大英帝国みたいなイギリスが、いまだ小国分立状態の欧州大陸を尻目に、アメリカを含む広大な植民地を抱えて繁栄している。EU離脱派のイギリス人が喜びそうな設定だな(^^;)。
ただ、世界の平和は保たれていて、作中に異能力者がこっちの世界を覗く場面があるが、殺伐とした世界に耐えられずにおかしくなってしまう。そういう意味では、本書は一種のユートピアを描いた小説ではあるのかもしれない。
トンネル事業の最高責任者に登用された主人公(アメリカ独立戦争を指揮して敗れ、処刑されたジョージ・ワシントンの子孫)が、トンネルで不利益を被る勢力の妨害と戦いながら、アメリカ人の誇りもかけて、トンネルを完成させていく。全体的な印象としては、のどかな冒険小説といったところ。楽しさはあるけれど、1972年という時期に書かれたとは思えないくらい、ストレートでのどかな作品に見える。
ただ、登場人物の名前に、楽屋落ちっぽいのが散見するのを見ると、かなり気楽に書いた小説という可能性もあるのかな。
面白くは読めたけれど、ちょっと単調な感じは否めなかった。
(2016.7.1)

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