感想「はじめて話すけど……」
「はじめて話すけど……」 小森収 創元推理文庫
昨年末に出たインタビュー集。
書店で見掛けて、冒頭のインタビューの相手が、近頃名前を見掛けない気がしていた各務三郎だったことで、興味を感じて、買ってみた。他にも興味深い名前が入っていたこともあり。
ただしこれは文庫化で、元版は2002年出版とのこと。従って、収録されているインタビューも、新版に向けて追加された北村薫を除けば、全部それ以前のものだった。「近頃名前を見掛けない」ことには、何も関係なかった(^^;。
あとはまあ、新しい本を読まずに、昔話を読むというのも、いかにも年寄りくさい、後ろ向きな読書だなあ、という気もしつつ…。
ちなみに、書店で見た時に興味を引かれたインタビュー相手(元々、ある程度の関心のある人物)は、各務三郎の他では、石上三登志、和田誠あたり。法月綸太郎、北村薫もよく知っている名前だけれど、逆にどういう方向の話になりそうか想像はついたし、あまり期待が出来ないのではと思った。
各務三郎や石上三登志については、彼らが関わっていた(以前から自分が興味を持っている)界隈の昔話の面白さだけでなく、彼らの興味の持ち方、面白がり方という部分に共感を覚えた。この二人の文章は、今まで随分読んだけれど、少し鼻持ちならないと感じることが時々あって、無条件にフォローしていたわけではなかった。でも、このインタビューから見える彼らの考え方を知ると、そういう文章の背景が見えてくるような気がしたし、好感度も上がった気がする。いまさらではあるけど。
和田誠の昔話も、この二人と近い所にあるかな。
三谷幸喜が「作戦」映画について語るインタビューは、「作戦」映画の楽しさというのが感覚的に分かる気がするので、楽しかった。皆川博子の、太平洋戦争前後の本好き少女の読書履歴も興味深かった。太平洋戦争前の日本にも、実は、ある程度開明的な文化が育っていたのだけど、軍国主義とそれが引き起こした戦争によって抑圧されていったということが、近頃、結構語られるようになって、ドラマや映画にも描かれたりしているようなのだけど(ほぼ見てないが)、それを連想させるような部分があると感じた。戯曲の翻訳について語る松岡和子のインタビューは、役を演じる俳優の実感によって、翻訳がブラッシュアップされていくという話に、とても興味を引かれた。
面白く読めなかったのは、やはり法月綸太郎で、アントニー・バークリーの作品を中心にした本格ミステリ論なので、バークリーをほとんど読んでいない(読んだものも内容を忘れている)自分にとっては、全然見えてこない話だった。まあ、これは仕方ない。
北村薫のインタビューは、自分とは嗜好の方向性が違う人だなというのが、改めてよく分かったと思う(ある意味、各務三郎、石上三登志と逆のパターン)。
面白く読めなかったものもあるけれど、それでも総じて、読んでよかったと思う。小説や映画といったものに対する自分の嗜好や立ち位置的なものも、改めて確認出来たような気がする。
最近のコメント